僕がツィッギーだった頃

魚は頭から腐る。靴下は踵から穴開く。

フロントミッションインポッシブル

仕事中、いつものように高速道路を時速6000マイルでぶっ飛ばしていたんです。6000マイルでくわえ煙草に片手ハンドル、バドワイザーをラッパ飲みしながらポマードのベッタリと付いた髪をクシでキザっぽく撫でつけ、マフラーを編みながらエビの背ワタを取っていたんです。嘘です。手が足りなくなっちゃったので嘘です。時速6000マイルがどれくらいか分からないし。エビがバックステップで神田川敏郎の手から逃れる速度。がたぶん6000マイル。ちっとも仕込みがはかどらんでー!
ゴメン簡潔に話すね。仕事中に営業車で高速を走っていたんですよ。普通に。そしたら急にフロントガラスにバチッって何か当たったんですよ。高速を走行中に虫が当たる事は珍しくないし、虫ならパチッくらいのものですからそんなんだったら驚きもしません。ちなみに水分多めの虫が当たった時の音は「パンッ」です。そして数秒前まで虫だった黄色がフロントガラスというカンバスに広がって、それが何回も重なると得も言われぬアートがそこに表れて後日ガソリンスタンドのおっちゃんが凄い顔をします。ただ今回は「バチッ」ですから。わけが違います。もうホント「バチッッ!」って。「ドバチィッ!」って感じ。「ブバチィッ!」くらいいってたかも。いや「ベニバチィッ!」だったかも。「猿君、紅蜂の睾丸責めにどこまで耐えられるかな」は、旗包みぃーっ!
そんな組織なら喜んで入る。だってサルだもの。そうつまり、それくらい驚いたって話ですよ。急にバチッってこられたらさ。驚きましたよ。思わず「さっぱっ!ぱっ!?」って言ったもの。三十路を過ぎてパ行で驚くとは思わなかったね。恥ずかしい。どうせならもっと格好良く「エ、エクスペリア!」とか言うんだった。「マイノリティー!」とか。「ドアトゥードアー!」とか。それがサッパッパですからね。Siriに聞かれてたら大変なことになってましたよ。マッハの速度で検索されてサッポロ一番パラグアイ工場をナビゲーションされるところでしたよ。サッパッパで。Siriすげーな。「次ノ信号ヲ左折デス」マジかよインターから遠ざかってっけど高崎から一般道で行けるのかよパラグアイパラマウントベット高崎営業所じゃなかんべな!
Siriの機能を理解しないで話題に出すのドキドキするぅー!
でさ。いろいろ気が済んだって意味を含めて、でさ。ビックラこきましたで済めば良かったんですよ。ビックラこいてオシッコちびりましたで済めば全然問題なかった。僕仕事中はノーパンの人ですから。僕にしか見えないスラックスの人ですから。春ですから。それだけで済めば良かったんですけど、フロントガラスにヒビ入っちゃったんですよ。バチーンでヒビ。ヒビっても、ホントにちっちゃい、僕のアナルくらい小さいサイズのオチョボいヒビなんですけど、これでもう車検は通らないんですよ。そのまんまじゃ。直すか交換しないと通らない。ゴーヤも通らない。1/200スケール戦艦大和も入らない。最悪。でも言っとくけど1/200って最大級だかんねプラモでは。それを入る入らないって言ってる時点でそれなりの大きさだってことは覚悟しとけよ!
覚悟?何を?とにかく車を修理に出さなくちゃいけないんですけど、会社の車なのでなんか報告書を出せとか言いやがるんですよ奴らが。状況をできるだけ詳細に報告してくださいとか杓子定規にぬかすわけですよ。バチーンでサッパッパで1/200なんだから詳しくもクソもないんですけど。そもそもフロントガラスに当たった物が何であったかも定かではないわけですから。そりゃ普通に考えりゃ他の車が弾いた小石ってのが無難な線なんでしょうけど、できるだけ詳細になんて言われたら、こっちもいい加減なこと書くわけにいきませんよそりゃ。もしかしたらスタープラチナが放ったパチンコ玉かもしれないですし。なんで私をスタンド能力を持つネズミと間違えたのか聞きづらいですけど承太郎さんおっかねーから。あ、もしかしたらキャッツカードだったかもね。「今夜オマエの命を頂きます。キャッツ」なんて。殺しも辞さないね最近のキャッツは。なんだよ不景気?絵画はどうしたよ親父の絵画は。あ、わかった。妖精さんが見るに見かねて。っていうパターンね。妖精ステッキを振りかざし踊り出てきたはいいがあいにくの6000マイル。「私の魔法で若干マシにしーてーあーゲパッ!」数秒前まで妖精だったヒビが。カンバスに。ヒビじゃなくて結晶なのかなこれ。マジカルパワーの。背ワタも残りませんわ。ちょいちょい俺の事見下してるのが気になってたからいい気味。報告書には「小石が」って書いたよ当然。妖精なんていない。