僕がツィッギーだった頃

魚は頭から腐る。靴下は踵から穴開く。

てーじ

こんな噂を聞いた。最近のT字カミソリは、剃刀負けしないらしい。まさか、そんなことがあるのだろうか。おりしも新しい電気シェーバーを物色していた僕にとって、それはにわかに信じられるような類の話ではなかった。T字カミソリといったら剃刀負けじゃないか。剃刀負け製造機といってもよい。剃刀負け界のイチローか。いや。「肌勝ち」だ。肌に勝つことのみを目的として作られた兵器だ。捨てちまえ。捨てちまえよそんなもん。
事実、その肌の弱さのためにカブトムシのサナギ並みに取扱注意な僕は これまでT字カミソリをほとんど使ったことがなかったし、数少ないT字カミソリ体験も全てカミソリ側の圧勝に終わっていた。最近ではT字カミソリを使う機会といえばマッスル伯爵のアンダーヘアーを剃毛する時くらいのもだった。「私のヤル気スイッチはどうしたわけか前立腺の上にあるのだよボーイ。だからさあこれで。このオーガニックニンジンで私のヤル気スイッチを探し当てておくれボーイ!さあ!」すでにヤル気十分じゃないか伯爵。「サナギ!僕のサナギがっ!そんなにしたら破けちゃう!中から白いの出ちゃう!ボーイから出ちゃう!」スイッチ押すとサナギっ娘に早変わり。
話がそれたが、とにかく僕にはどうしてもその噂、最近のT字カミソリは剃刀負けしにくいものになっているという話が信じられなかった。信じていないはずだった。だが、今僕の手元にはまさに最新のT字カミソリがある。どうしたことだろう。その流線型のフォルムに惑わされたのか。僕は僕にそのT字カミソリを持たせた理由をしばし探してみた。分からない。僕は考えるのをやめた。いつだってそうだ。あのときも理由なんて。いつも理由なんてなかったのだ。僕は考えるのをやめ、その最新型の、剃刀負けしにくいとパッケージに書かれたT字カミソリを静かに使った。そしてバッチリ剃刀負けした。世の全てはクソだ。